健康増進のための油脂の新しい選び方
〜エゴマの効用〜
奥山治美(金城学院大学薬学部)
1.あぶらと病気 サミットで講演する奥山治美先生
油脂(あぶら)は多くの病気と深く関わっているが、今回の話題は、(1) 動脈硬化・心臓病予防の油脂の選び方が完全に変わってしまったこと、(2) 多種のガンが油脂の選び方と関わっていること、に主点をおいた。 油脂を構成する脂肪酸は、体内での代謝に基づき、飽和・一価不飽和脂肪酸の系列、リノール酸(n-6)系列、α-リノレン酸(n-3)系列に大別できる。リノール酸はアラキドン酸に変わり、ここから各種のホルモン様物質が作られる(リノール酸カスケード)。これに対し、α-リノレン酸系はリノール酸カスケードを抑える方向に働く。動脈硬化 ・心疾患、ガン、アレルギー過敏症など、多くの病気が、リノール酸カスケードの亢進によることが明らかになってきた。
2.あぶらの常識が変わった
“動物性脂肪に多い飽和脂肪酸とコレステロールの摂取を減らし、高度不飽和脂肪酸の多い植物油を増やすと血中コレステロール値が下がり、動脈硬化、心臓病が予防できる”、というコレステロール仮説は、半世紀ほど前に確立したかにみえた。しかしここには落とし穴があった。この仮説にそった栄養指導を長期に続けると、むしろ心臓病が増えて寿命が短くなることが、国内外で示された(コレステロール仮説の崩壊)(参考書2)。
3.コレステロールは動脈硬化・心臓病の主因ではない
“血中コレステロール値が高いと酸化LDL(悪玉コレステロール)が増え、動脈硬化が進む”、という理解は、長い間、医療の常識であった。今でも、コレステロール値を下げる医療が広くおこなわれている。しかし、ここにも大きな落とし穴があった。 高コレステロール値群と低コレステロール値群の心臓病死亡率の比(相対危険度)は、調査した集団により、また年齢層により、大きく変動する。始めにコレステロール値の高い人を集めた集団では、相対危険度は大きく、一般集団では小さい。多くの調査結果を“先天的にコレステロールが細胞内に取り込まれにくい家族性高コレステロール血症(FH)の人の割合”をキーワードとして解析すると、次のような解釈が可能であることがわかった。 (1)高コレステロール値の心臓病死に対する相対危険度は、主として集団中のFHの割合を反映するものである。 非FH(あるいは40〜50歳以上の一般集団)では、高コレステロール値は心臓病(虚血性)の原因とはならない (2)集団では、血中コレステロール値の高い群のガン死亡率と総死亡率が低いことである。そのメカニズムも明らかにされつつある。コレステロール医療は今、大きな方向転換期にきている。40歳を過ぎれば、コレステロール値が低い方(180mg/dL以下)が危険信号であって、男性では260まで、女性では280までは安全な領域であると考える医療関係者が増えている。
4.増えているガンと減っているガン
過去数十年の間に、胃ガン、子宮頸ガンは減少傾向にあるが、肺ガン、大腸ガン、乳ガン、前立腺ガンなどが欧米を追って増えている。肺ガンは喫煙と相関の高い扁平上皮ガンと相関の低い腺ガンとに分けられるが、今、増えている肺ガンの半分以上は、喫煙と相関がない(低い)肺腺ガンであるといわれる。これら増えているガンのすべてについて動物実験では、リノール酸(n-6)系が促進し、α-リノレン酸(n-3)系が抑制することが明らかにされている。臨床研究も進んでおり、魚油が多種のガン患者に延命効果を示すこと、アラキドン酸摂取が多いと大腸ガンが増えること、抗炎症薬がガンを抑えること、エゴマ油 ・魚油が大腸腫瘍の再発を抑えること、などが明らかにされつつある。
5.有害成分を含んでいる食用油 各
種の植物油には植物ステロールやビタミンE以外に多くの微量成分を含んでいる(カノーラ油、オリーブ油、高オレイン酸紅花油、月見草油、コーン油、水素添加大豆油など)。植物油を部分水素添加した水素添加(硬化)植物油にはトランス脂肪酸が含まれており、これを食環境から除く運動が欧米で進んでいる。これら食用油に含まれていると思われる微量因子の作用は次のように要約できる。 (1) トランス酸の心臓病に対する危険度はそれほど強くない。 (2) 水素添加植物油および他の数種の植物油は脳卒中促進・寿命短縮作用を示す。 (3) 水素添加植物油の有害因子の一つはジヒドロ型ビタミンK1である。 (4) 数種の食用油に内分泌撹乱作用がある。 (5) オリーブ油、パーム(オレイン)油、エコナなどは発ガン促進作用を示すが、脂肪酸組成では説明できない。 (6) 動物性脂肪は比較的、安全である。 (7) コレステロール低下を標榜する食品は危険である。
6.油脂の新しい選び方
リノール酸含量の高いもの、微量有害因子を含む油脂(上述)は食用に適さない。植物油ではエゴマ油、フラックス油などしか勧められる物はなく、むしろバターなど動物性脂肪の安全性が強調できる。ただし糖尿病予備軍は動物性脂肪も含め、エネルギーの過剰摂取になる事を避ける必要がある。
7.エゴマの効用
エゴマは食経験が長く、エゴマ油はわが国の食用油として最も古い歴史がある(8世紀)。リノール酸が少なくα-リノレン酸の多いエゴマ油(シソ油)は、安全性はきわめて高い。エゴマ油(perilla oil)を使った研究の英文原著論文も今年、100報を越え、世界に広く認知されるようになった。心臓 ・脳血管の病気、ガン、アレルギー過敏症から神経症に至るまで、広く有効性が認められている(基礎/臨床研究)。魚油の有効性も広く認められているが、近い将来、魚介類の供給不足の問題は避けられない。このような背景から、エゴマ油のような高α-リノレン酸食用油の必要性は将来、益々高まると思われる。種子自体も高タンパクであり、ビタミン、ミネラルも豊富である。エゴマ種子を食環境に復活させ、新しく展開してゆくことが強く勧められる。
8.おわりに
動物性脂肪とコレステロールを悪玉とし、植物油を善玉とする考えが、医療関係者にあまりにも深く浸透しており、この誤りに気づいている人は少ない。しかし古い考えに基づく栄養指導は効果がないばかりか、むしろ心臓病を増やし寿命を短縮する危険なものであることが、国内外で示されている。今ほど、あぶらの選び方の方向転換が必要な時はない。新しい知識を吸収し実践し広めてゆくことが必要である。

<参考書>
1. 奥山治美「油、このおいしくて不安なもの」農文協、1989年
2. 奥山治美他「心疾患予防-コレステロール仮説から脂肪酸のn-6/n-3バランスへ-」コネットアカデミックプラザ、大阪、2002
3. 奥山治美「薬でなおらない成人病(生活習慣病)」 黎明書房、1999
● サミット資料をお分けします。
第7回全国エゴマサミットin宮城丸森町で参加者にお配りした大会資料(50ページ)および第1日目に講演された近藤嘉和先生の「台所漢方あれこれ」(20ページ)が若干残っていますので、希望者には両方を合わせて一部500円(税込、送料別)でお分けします。希望の方は日本エゴマの会事務局または丸森町じゅうねん研究会事務局(佐藤岩雄、TEL 0224-72-2446)まで。